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磐長姫(イワナガヒメ)とは?縁結びや不老長寿で知られる女神の本当の姿

2019年12月14日 2019年12月14日

こんにちは!北極神社の新米巫女、橋本ユリです。

イワナガヒメは『古事記』や『日本書紀』などの日本神話に登場する女神様です。古来より延命長寿や縁結びの神様として信仰を集めてきました。

女神様というと美しいイメージがありますが、イワナガヒメは非常に醜い容姿をしており結婚を断られてしまうという悲しい物語があります。

橋本ユリ
そんなイワナガヒメは神話の中でどのように描かれ、また、現代ではどのような存在の神様として祀られているのでしょうか?


今回の記事では、イワナガヒメの神話やご利益について紹介をしていきます。

それでは参りましょう!

イワナガヒメ(磐長姫命)とは


イワナガヒメは大山津見神(オオヤマツミノカミ)を父に持っており、また、木花之佐久夜毘売(コノハナサクヤビメ)の姉でもあります。

オオヤマツミはイザナギとイザナミの神産みの際に生まれた神様で、山を司る力を持っています。コノハナサクヤビメが非常に美しい容姿をしていたのに対し、イワナガヒメは醜い容姿をしていました。

天照大神の孫である瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)のもとへ、コノハナサクヤビメとイワナガヒメは二人で嫁いでいくのですが、ニニギは醜い容姿のイワナガヒメだけ送り返すという話があります。

ニニギノミコトとの神話から、イワナガヒメには「縁切り」のご利益があるとされています。それと同時にイワナガヒメには「縁結び」のご利益もあるのです。

イワナガヒメは、悪縁を切って良縁を結ぶ神様として現代でも親しまれています。

 

別名


『古事記』と『日本書紀』でそれぞれ漢字の表記が違います。

『古事記』
・石長比売
・岩長比賣命

『日本書紀』
・磐長姫
・磐長姫尊

「磐(いわ)」という言葉には「永久に変わらぬことを祝う」という意味があります。このことから、イワナガヒメの名前には「岩(石)のように永久に変わらぬ女神」といった意味が込められているのです。

イワナガヒメは不老長寿の力を持つ女神様でした。古来より長寿の女神として篤い信仰を集めています。

また、古事記にのみ登場する「木花知流比売(コノハナチルヒメ)」はイワナガヒメと同一神であるとされています。そのため、コノハナチルヒメもイワナガヒメの別名であると考えられます。

 

ご神格



  • 岩の神

  • 寿命長久の神


イワナガヒメは「岩のように長く続く命」を神格化した神様です。そのため一般的には「岩の神」や「寿命長久の神」とされています。

ただし神社によってはイワナガヒメを「縁結びの神」として祀っています。

 

ご利益



  • 延命長寿

  • 縁切り

  • 縁結び

  • 安産

  • 家内安全


ご神格から、イワナガヒメには延命長寿のご利益があるとされます。また、神話から縁切りや縁結びなどのご利益もあるとされています。

 

イワナガヒメ(磐長姫命)の神話


橋本ユリ
では、イワナガヒメは神話の中でどのように描かれていたのか、詳しく見ていきましょう。


 

ニニギとコノハナサクヤビメの出会い


天照大神の命により、中つ国をニニギノミコトがおさめることになり、ニニギは中つ国へ天下ります。天照大神の孫であるニニギが天下ったということから、天孫降臨(てんそんこうりん)と言われます。

ニニギが中つ国へ天下ってからしばらくが経った頃、ニニギは笠沙の岬(かささのみさき)でとても美しい娘に出会います。ニニギが名を尋ねると、娘は「コノハナサクヤビメ」と名乗りました。

ニニギは美しいコノハナサクヤビメにひとめぼれをしてしまい、さっそく「あなたをわたしの妻にしたいのだが、どうだろうか」と求婚します。

コノハナサクヤビメは「父のオオヤマツミに相談してみませんと、私だけでは決められないのです」と答えます。そこでニニギは山の神であるオオヤマツミのもとへ、結婚を申し込むための使いを送りました。

 

姉妹でニニギへ嫁ぐ


コノハナサクヤビメとニニギの使いから結婚の知らせを聞いたオオヤマツミは、たいへん喜びました。オオヤマツミにとって、天照大神の孫との結婚は願ってもないことでした。

オオヤマツミは豪勢な贈り物を用意し、コノハナサクヤビメと姉のイワナガヒメを二人揃ってニニギに嫁がせるために送り出します。

コノハナサクヤビメが嫁いできてくれたのはいいものの、一緒についてきてしまったイワナガヒメに、ニニギは困り果てました。コノハナサクヤビメは非常に美しい娘だったのですが、イワナガヒメは妹とは似ても似つかない醜い容姿をしていたからです。

ニニギはイワナガヒメに対してすっかり嫌気が差し、オオヤマツミのもとへイワナガヒメだけを送り返してしまいます。

 

オオヤマツミの怒り


大事な娘を無下にされたオオヤマツミは、たいそう怒りました。そしてニニギのもとへ恨みの言葉を送ります。

「コノハナサクヤビメとイワナガヒメを嫁がせたのには意味があったのだ。コノハナサクヤビメは花のように繁栄をもたらすが、花はやがて散っていく。イワナガヒメは岩のように長く続く命をもたらす。イワナガヒメが傍にいれば、御子の一族の命は長く続いたのだ。このようなことになって残念だ」

オオヤマツミがニニギのもとへ姉妹を嫁がせたのには、ちゃんとした意味があったのです。そうとは知らず、ニニギは容姿だけで全てを判断し、イワナガヒメを送り返してしまいました。

姉妹が揃っていれば、ニニギは花のように繁栄する子孫と、長く続く命を手に入れられるはずでした。しかし、イワナガヒメを送り返してしまったせいで、天津神の一族の命は短く限りあるものになってしまったのです。

 

イワナガヒメの呪い


以上は『古事記』による記述です。『日本書紀』での記述は少し違っており、ニニギとコノハナサクヤビメの子供にイワナガヒメが呪いをかけたとの記述があるのです。

ニニギに求婚を断られたイワナガヒメは「私を妻に娶っていれば、あなたの子孫は長く続く命を得られるはずでした。妹だけを妻に娶るのならば、あなたの子孫の命は花のように短く散っていくでしょう」とニニギに直接告げます。

やがてコノハナサクヤビメは、ニニギとの子供を身ごもります。するとイワナガヒメは泣いて唾を吐き、腹の中の子供に呪いをかけました。

イワナガヒメによって、天津神の子孫は「寿命」という呪いにかけられてしまったのです。このような経緯から、人間たちの命は短く限りあるものになったと言われています。

 

イワナガヒメの夫


さて、ニニギに追い返されてしまったイワナガヒメですが、実はその後、八島士奴美神(ヤシマジヌミノカミ)という神様と結婚をします。

ヤシマジヌミは、須佐之男命(スサノオノミコト)と櫛名田姫(クシナダヒメ)の間に生まれた神様です。八つの島の主であるとされています。

ヤシマジヌミとイワナガヒメの結婚の物語が出てくるのは『古事記』のみです。『日本書紀』には出てきません。『日本書紀』は天皇記を中心としているため、省略されたのではないかと考えられています。

ヤシマジヌミと婚姻を結ぶ際のイワナガヒメは「コノハナチルヒメ」という名前で登場します。コノハナチルヒメはオオヤマツミの娘とされており、オオヤマツミの娘はコノハナサクヤビメとイワナガヒメだけなので、コノハナチルヒメとイワナガヒメは同一神だと考えられます。

コノハナチルヒメはヤシマジヌミとの間に、布波能母遅久奴須奴神(フハノモヂクヌスヌノカミ)という子をもうけます。それからも子孫は繁栄していき、やがて有名な大国主神(オオクニヌシノカミ)が誕生します。

コノハナチルヒメとイワナガヒメが同一神であれば、大国主神はイワナガヒメの子孫ということになりますね。

 

イワナガヒメ(磐長姫命)を祀る神社


貴船神社


貴船神社の結社(ゆいのやしろ)では、磐長姫命を祀っています。結社は「恋の宮」とも称され縁結びのご利益があるとして有名です。

緑色の「結び文」という紙に願い事を書き、結社の「結び処」に結び付けて祈ることで願いが叶うと言われています。

男女の縁結びだけでなく、学業や仕事、子授かりなどあらゆる縁を結んでくれるとして信仰を集めています。

夏と秋に行われるライトアップは非常に美しく、幻想的で人気が高いです。ぜひ足を運んでみてください。

住所:〒601-1112 京都府京都市左京区鞍馬貴船町180
アクセス:叡山電車「貴船口」駅よりバスに乗り換え「貴船」下車で徒歩5分

ご祭神:高龗神、磐長姫命
ご利益:縁切り、縁結び、安産、子授かり、商売繁盛

 

雲見浅間神社


雲見浅間神社は、静岡県の烏帽子山(えぼしやま)の山頂に鎮座しています。近くには雲見温泉という温泉街があります。

全国各地に点在する浅間神社の多くは、コノハナサクヤビメを主祭神として祀っていますが、雲見浅間神社はイワナガヒメだけを主祭神として祀っています。

山頂からは伊豆の絶景を一望することができます。山の上なので行くのが少し大変ですが、駐車場もあり車でのアクセスも可能なので、機会があればぜひお参りに行ってみてください。

住所:〒410-3615 静岡県賀茂郡松崎町雲見386-2
アクセス:東名沼津ICから国道136号線経由で2時間

ご祭神:磐長姫命
ご利益:延命長寿、病気平癒、安産

 

大室山浅間神社


大室山は静岡県伊東市にある火山です。その中腹に鎮座しているのが「大室山浅間神社」です。雲見浅間神社と同じく、イワナガヒメのみを祀っています。

大室山からは富士山を見ることができるのですが、「大室山から富士山を褒めてはいけない」という言い伝えが残されています。

というのも、富士山にはコノハナサクヤヒメを祀る「富士山本宮浅間大社」があります。イワナガヒメとコノハナサクヤヒメは仲の良い姉妹でしたが、ニニギノミコトに嫁ぐ際に妹だけが見初められ、姉のイワナガヒメは送り返されてしまいます。

このことからイワナガヒメはコノハナサクヤヒメを恨んでいるという伝説が残っているのです。あくまでも伝承ですが、大室山浅間神社にお参りへ行くときは気を付けてください。

住所:〒413-0231 静岡県伊東市富戸
アクセス:伊東駅よりバス「シャボテン公園」で下車しリフトに乗り換え

ご祭神:磐長姫命
ご利益:縁結び、安産、家内安全、延命長寿

 

伊豆神社


岐阜県に鎮座する伊豆神社も、イワナガヒメだけを主祭神として祀る数少ない神社の一つです。長寿や健康のご利益があるとされています。

住所:〒500-8237 岐阜県岐阜市切通3丁目12番49号
アクセス:岐阜市コミュニティバス「伊豆神社前」下車

ご祭神:磐長姫命
ご利益:延命長寿、健康

 

伊砂砂神社


伊砂砂神社は重要文化財に指定されている由緒のある神社です。イワナガヒメを中心に五柱の神様を祀っています。

住宅街の中に佇む静かな雰囲気の神社です。心を落ち着けたいときなどに参拝されると良いかもしれません。

住所:〒525-0026 滋賀県草津市渋川2-2-1
アクセス:JR「草津駅」より徒歩8分

ご祭神:石長比賣命、寒川比古命、寒川比女命、伊邪那岐命、素盞嗚命
ご利益:健康長寿、国土守護、安産、子育て、商売繁盛、厄除け

 

銀鏡神社


銀鏡(しろみ)神社は、宮崎県の銀鏡集落に鎮座する神社です。イワナガヒメを主祭神として祀っています。

伝承によると、容姿が醜いことを理由にニニギに追い返されたイワナガヒメは、自分の顔を呪いながら毎日鏡で見つめていました。

ある日、いつものように鏡を見てみると、自分の顔が醜い龍のように変貌していました。驚いたイワナガヒメは鏡を投げ捨てます。その鏡が銀鏡の付近に落ち、辺りを白く照らしたそうです。このことから「白見=銀鏡」という地名がついたと言われています。

毎年12月に行われる伝統行事「銀鏡神楽」が有名です。

住所:〒881-1232 宮崎県西都市大字銀鏡492
アクセス:宮崎空港から車で2時間

ご祭神:磐長姫大神、大山祇大神、懐良親王
ご利益:健康長寿、病気平癒、厄除け

 

まとめ


神話に登場する女神様は美しい容姿を持つとして描かれることが多いですが、イワナガヒメは醜い容姿を持つ女神様として描かれています。

容姿だけで全てを判断したニニギの責任で、本来なら長い命を持つはずの天津神の子孫が「寿命」という呪いにかけられた、というのは何とも皮肉の効いた物語ですね。

イワナガヒメの神話は悲しいものでしたが、古くから縁結びや延命長寿の神様として親しまれています。ニニギに求婚を断られたことを恥じ、「これからは人々の良縁を結ぶ神となろう」と宣言して縁結びに神になられたという逸話もあります。

橋本ユリ
縁結びや延命長寿などの祈願がしたい人は、ぜひイワナガヒメのご利益にあずかられてみてはいかがでしょうか。

この記事をまとめた人

橋本ユリ
橋本ユリ
神社チャンネルのメインキャラクター。北極神社の新米巫女。2017年、神社参拝セミナーで羽賀ヒカルと出会い、日本人の良さと伝統を伝えていきたい!という思いから、この神社チャンネルサイトが始まりました。(という設定です。)

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